2007年01月28日

『オ・カイル・ダ・タルヂ』ネイ・マットグロッソ

 トム・ジョビンの誕生日も無事に終わりましたが、自宅でトムのソングブックを多数かける日が続いています。改めて探してみるとずいぶんあります。80枚くらいあるかな?(全曲トムの曲でなくても、過半数がトムの曲で占められているものも含めて)

 その中で最近毎日のように聴いている1枚がこれです。もしかしたらトムのソングブックでいちばん好きな一枚かもしれません。

 ネイ・マットグロッソはあまりジョビンを歌わないなあと以前は思っていました。ですからこの盤が出た時にはあっと驚いた覚えがあります。

 これも全曲がトムの曲ではなくて、14曲中、ヴィラ・ロボスの曲が7曲、トムの曲は6曲、もう一曲は童謡のメドレーです。

 それにしてもネイ・マットグロッソはすばらしい。この個性はブラジルの至宝だと思います。本当にすばらしい表現力で、トムの曲の微妙な表情を見事に引き出しています。それは笑いだったり、不安だったり、嘆きだったり、皮肉だったりします。

 それにまたアレンジが最高に良いです。小(または中)規模の編成のコンボなのに、ものすごくダイナミックでドラマティックで、広がりと奥行きがあります。ピアノとアレンジは名手レアンドロ・ブラーガ。

 ベストは、冒頭の「カイル・ダ・タルヂ」(ヴィラ・ロボス)から「モヂーニャ」(トム・ジョビン)へと続くメドレー。アマゾンのジャングルの息吹が聴こえてきそうです。

 多くの人に聴いて欲しい一枚です。

参考

2007年01月20日

間もなくジョビン生誕80周年

アントニオ・カルロス・ブラジレイロ・ヂ・アルメイダ・ジョビンは、1927年1月25日23時15分、リオデジャネイロのチジュッカの、コンヂ・ヂ・ボンフィン634番地で生まれました。あと5日で、生誕80周年です。

亡くなったのが1994年12月8日ですから、それから12年が経過したことになります。

僕は二冊目の「トム・ジョビン・ブック」を何とか彼が亡くなって10年目の12月8日に出したくて、そのことに関してはいろいろな方に迷惑をかけたのですが、何とかそのようにすることができました。反響が意外に大きくて驚いたのですが、でも、どうしてそうしたかったのかと言うと、その10年目を境にして、トム・ジョビンの捉え方がブラジルでも日本でも大きく変わってしまうのではないかと思っていたからでした。

トム・ジョビンが生きていた時間よりも、亡くなったあとの時間に僕たちが慣れてしまう。彼の不在が当たり前のことになってしまう。トム・ジョビンが過去の「大作曲家」になってしまう。イパネマの街角のバールでショッピをあおっていたあの「僕らのトム」が、博物館に入ってしまう。そういう、どうしようもない流れに対するささやかな抵抗として、トム・ジョビンを一人の生身の人間として記憶しておきたい…それで無理やり10回目の命日に上梓を間に合わせたいと思っていたのでした。

それからたった2年ですが、見事にそういう状況になってきたと思います。トムのことをまったく知らない若手歌手が彼の曲を録音したり(別にそのこと自体は悪いことではないのですが)、トムに関してあまりにも出鱈目なことが公然と語られたり、トムの名前がほかのどうしようもなくくだらない音楽家と同列で語られたり……いちいち指摘しませんけれども、ずきんと胸が痛むことが少なくありません。

同時に、恩恵もたくさんあります。特に今度のDVD発売は、(これも著作の中で予言したことなのですが)見事な快挙です。でも、それと同時に、何だかまたトムがもうちょっと遠くに行ってしまった感じがするのは、僕だけでしょうか?

僕は別にDVDで彼の映像が観たいわけではなくて、この摩訶不思議な人物とショッピを飲みながらうだうだと話がしたいんだけどなあと思ってしまう。

トム・ジョビンを死なせてはいけないと強く思うのです。「ああ、あの、すごくきれいな曲をたくさん書いた人ね」にしてはいけない。まあ、本当にささやかな抵抗です。

それと、特に僕は最近、70年代のトムを思うことがあります。ボサノヴァ後のブラジルでまるで「アメリカに魂を売った」ようなことを言われてしまって、失意の日々を送っていたトムのことを。

でもそういう日々の中で、トムはやはりしっかりとした仕事をして、80年代には、ブラジルから改めて認められていくようになりました。愚痴一つ言わないで(言ったかもしれないけど)、こつこつと良い曲を創り続けて。

とまあ、いろいろな思いがあります。それにしても、生誕80周年は、ちゃんとお祝いしないといけないと思っています。

*トム、あと20年僕も生き延びることができれば、生誕100周年は、日本でもちょっとしたパーティをやるからね……。

2007年01月14日

1月13日に聴いたレコード

*良く晴れた土曜日。午後にラグビーを一試合TV観戦した以外はほとんど仕事をしながら音楽を聴いていました。

『レニー・デイル・イ・ウ・サンバランソ・トリオ』A面

『モンタージュ/LA4』B面

『エスコーラ・ヂ・サンバの真髄 マンゲイラ』A面

『リオ・バイーア/ジョイス・ウィズ・ドリ・カイミ』

『ヴァンドーム/MJQ スウィングル・シンガーズ』B面

『ザイコ・ランガ・ランガ』A面

『リトル・バード/ピート・ジョリー』A面

『胸いっぱいのサウダージ/アルトゥール・ヴェロカイ』

『マチータ・ペレー/トム・ジョビン』B面

『ドビュッシー 前奏曲第一巻 映像第一集・第二集/ベネデッティ・ミケランジェリ』

『ドビュッシー 海 夜想曲 牧神の午後への前奏曲/ダニエル・バレンボイム指揮・パリ管弦楽団』

『ドビュッシー 海 イベリア/アルトゥーロ・トスカニーニ指揮・NBC交響楽団』AB面

『ハダメス・ジナタリ オブラス・パラ・ピアノ ピアノ・ワークス/ホベルト・スィドン』AB面

『恋の行方/アイリーン・クラール』A面

*AB面の表記のあるのがLPで、ないのがCDです。

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2007年01月13日

『オトロ・トンズ(もう一つのトム)』ファティマ・ゲヂス(下)

このアルバム、最初は「ちょっとやり過ぎなのではないか?」と思ったくらい全編これ「非・有名曲」で占められているのですが、聴き込むうちに実に好ましい愛聴盤になってきました。これぞ21世紀的ジョビン・ミュージックの楽しみ方なのかもしれません。世間にほとんど知られていない曲の中にこれだけ佳曲があるのですから、まだまだジョビン作品の陽の当たらないところを掘り起こし続けていく価値があると思います。

あと、ファティマ・ゲヂスはアン・バートンの影響を受けているように思います。僕は今までこの人は自分の曲を歌う人なのだと思っていたので、こういう企画は意外だったのですが。

*以下、(R)は『RAROS COMPASSOS』に、(M)は『MEUS PRIMEIROS PASSOS E COMPASSOS』にその録音が収められていることを表わしています。

1曲目の「Na hora do adeus」は、過去にはおそらく一度だけ、1960年にゼジーニョに録音された(R)ことがあるだけのトム=ヴィニシウス作品。僕もまったく記憶にない曲でした。

2曲目の「Faz uma semana」は、トムとジョアン・ストックレルが共作して1953年にエルナーニ・フィーリョに録音された(M)曲。これも過去にその一度しかレコーディングされていないと思います。

3曲目の「A chuva caiu」はトム=ボンファ作品で、アンジェラ・マリアの歌(M)とルイス・ボンファ自身の演奏(R)の2つの録音(ともに1956年)があります。チャーミングなメロディの佳曲。ここでのファティマのヴォーカルもさりげなくて好ましいです。エンディングのピアノも「雨」つながりでしゃれています。

4曲目の「Engano」もボンファとの共作。1956年のドリス・モンテイロ(M)と1964年のチャーリー・バードの録音があります。

5曲目の「Incerteza」は、記念すべきトムの初録音曲です(ニュウトンとの共作です)。1953年のマウリシー・モウラの録音(M)がそれです。あと、ニュウトンの作品を集めたクリス・デラーノの2002年のアルバムにも入っていました。

6曲目の「Sonho desfeito」は、トムがアルマンド・カヴァルカンチ、パウロ・ソレダーヂと共作した1956年の作品。ビル・ファーのヴォーカル(M)と、ハウル・ヂ・バーホスのトロンボーン(M)(後者は「Pé grande」という異なるタイトルになっています)の2つのヴァージョンがあります。このファティマ・ゲヂスのCDのライナーには「「シェガ・ヂ・サウダーヂ」でジョビン自身によってさらに完成されたサンバ・ヂ・トランジサォン」というスタイルなのだという表記があって興味深いです。確かに「シェガ・ヂ・サウダーヂ」に通じるものがある良い曲です。

7曲目の「Olha pro céu」は、初演はジョビン自身の『ウェイヴ』(1967年)のインストゥルメンタルで、その時のタイトルは「Look to the sky」でした。ジョビン自身が歌詞をつけた1995年のレニー・アンドラーヂの録音が絶品。あとはジョアン・ドナートも録音しているようです。ファティマのヴォーカルもちゃんと歌っていてとても良いです。

続くトム=ヴィニシウスの「Pelos caminhos da vida」も、1959年のマイーザによる録音が残されていただけの曲。この曲はタイトルを見た時から「これは初録音では?」と思っていたのですが、ちゃんとマイーザのアルバムに入っていました。曲はもうその当時のサンバ・カンサォンの典型です。

9曲目の「Para não sofrer」はトムの単独作品。つい先日も紹介した1962年のセリア・ヘイス、同じく1962年のネリー・マルチンス(R)、1963年のフルートのジョルジーニョ(R)の3つの録音が残されている曲。ところどころとてもキャッチーなメロディの興味深い曲です。

10曲目の「Pensando em você」もトムの単独作品。1953年のエルナーニ・フィーリョによる録音(M)が唯一です。前述の「Faz uma semana」のA面だったので、レコードになったトムの曲としては史上二番目の曲と言えます。

11曲目の「Vida bela(Praia branca)」はトム=ヴィニシウス作品で、かの『カンサォン・ド・アモール・ヂマイス』(エリゼッチ・カルドーゾ)に収められていながら、今日まで一度も再録音されたことのなかった曲。これも一聴して「知らないなあ」と思ってしまいました。でもこの曲は僕はちょっと面白くありませんでした。

ラストの「Luar e batucada」は、シルヴィア・テリスが1958年に歌った(M)曲。ほかに1988年のマルリーニによる録音があるそうです(僕は未聴です)。もちろんファティマはシルヴィアとは微妙に趣を変えて歌っています。

2007年01月11日

『オトロ・トンズ(もう一つのトム)』ファティマ・ゲヂス(上)

近年、有名曲をわざと外して、ほとんど知られていない曲で構成するトム・ジョビンのソングブックが増えてきていますが、これはその極めつけと言っても良い1枚です。

ファティマ・ゲヂスってほとんど聴いたことがなかったのですが、非常に好感を持ちました。ピアノ・トリオをバックに歌うシンプルなフォーマットも、この企画に関しては成果を収めています。さりげなく語るように歌うそのスタイルは、ジャズ・ヴォーカル・ファンにはアイリーン・クラールやカーリン・クローグを彷彿とさせると言えばわかりやすいかもしれません。

ピアノは名手パウロ・ミドーシ。あちこちに「ヂサフィナード」とか「ショヴェンド・ナ・ホゼイラ」とか「リジア」とか「ヂンヂ」とかのメロディが飛び出して楽しいです。

そして収録曲ですが、全12曲のうち、曲名からメロディが簡単に思い出せたのはたったの4曲でした。2曲を除いてすべてが1960年以前に作られた曲で、半分の6曲が1957年以前に作られた曲。すなわちほとんどがサンバ・カンサォン時代の「今まで1人か2人かせいぜい3人くらいにしか録音されていない曲」で占められています。究極の「ジョビン秘境探検」という感じです。

*個別の曲の紹介は、また改めて。

2007年01月07日

1月6日に聴いたレコード

*昨夜は思わぬところで偶然B氏にお会いして、ちょいと一杯のつもりが……でした。楽しい夜でした。

*今日は冷たい雨の土曜日。一日机に噛り付いて仕事。しかしなかなか捗らない……。

『わたしのサンバ/ナラ・レオン』A面

『テテ・プレイズ・ボサノヴァ/テテ・モントリュー』

『ア・フォッサ2/チト・マーヂ』A面

『アケーリ・ソン・ドス・ガトス』

『クロード・ウィリアムソン・トリオ』A面

『ア・ムジカ・ヂ・エドゥ・ロボ・ポル・エドゥ・ロボ』A面

『ハイ・フライ/ジャッキー・バイアード』A面

『夢をたずさえて/シコ・ブアルキ&マリア・ベターニア』A面

『アイ・ドント・ケア・フー・ノウズ・イット/デューク・ピアソン』

『スローモーション・ボサノヴァ/セルソ・フォンセカ&ホナルド・バストス』

『ピアノ・ストリングス・アンド・ボサノヴァ/ラロ・シフリン』

『ノス/レニー・アンドラーヂ&セーザル・カマルゴ・マリアーノ』A面

『メイド・イン・コラソン/トッキーニョ&渡辺貞夫』

『オトロス・トンズ/ファティマ・ゲヂス』

*最後のファティマ・ゲヂスのジョビン集は語りたいこと満載なので、今度また紹介します。

*AB面の表記のあるのがLPで、ないのがCDです。
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2007年01月06日

『イネーヂト』のオリジナル『CBPO盤』の全貌(下)

前回の続きです。

昨年の秋にマイアミの中古レコード業者から「『イネーヂト』のオリジナル」という商品を購入しました。そのLPは上記のように以前に手に入れていたのですが、先方の「ボックス」とか「分厚いテキスト」とかいう表現が気になったので、騙されたと思って買ってみることにしました。料金はだいたい3千円くらいでした(送料別)。

その船便も着くまでに2ヶ月くらいかかったので、もしかしたら本当に騙されたかなあと思っていたら、12月中旬に荷が着きました。で、開けて驚きました。このレコードは最初はこういう形で発売…ではない…配布されたんだなあと。


ボックス内テキスト

ボックスの奥にはこういう本が収められています。セルジオ・カブラルによるトム・ジョビンの評伝です。



テキスト表

改めてその表紙です。こういうものが作られたことは知っていたのですが、とても立派な書籍の体裁をとっているので驚きです。ハードカヴァーです。



テキスト内側

内側の1ページです。ページ数にして213ページあります。ディスコグラフィもとても充実しています。



レーベル

レコードのレーベルも載せておきます。



以上、『イネーヂト』のオリジナルでした。改めて資料を見てみたら、4千枚しかプレスされなかったもののようです。主に博物館や教育施設などに配られたそうです。

2007年01月05日

『イネーヂト』のオリジナル『CBPO盤』の全貌(上)

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

新年を祝って(とってつけたようですが)、ちょっと画像を載せてみます。僕はCDやLPのカヴァージャケットも厳密に言うと著作権に引っ掛かると思っているので、そのこともあってほとんどテキストのみでこのブログをやっているのですが、珍しいものはやはりご紹介しておこうと……。

トム・ジョビンのアルバムの最近の再発では何と言っても『イネーヂト』が快挙でしたが、そのオリジナルはブラジル企画製作社(CBPO)とオデブレヒト財団による1987年のダブル・アルバムです。トムの60歳を祝ってヴェラ・ヂ・アレンカルが企画、ジャイロ・セヴェリアーノが手伝って実現したLPで、タイトルは『トム・ジョビン』でした。非売品で、数千枚しかプレスされなくて、関係者にだけ配られたレコードです(数字は正確ではありませんが)。



CBPOレコード表


これを手に入れたのは一昨年くらいだったと思います。



同レコード中左

同レコード中右


内側はこういう感じです。



同裏


裏側です。



CBPOボックス表


ところが上記はこの時に製作されたものの一部でしかなかったことが最近になってわかりました。実はこういうボックスに入っています(続きます)。