2008年09月23日

坂尾英矩さんにトム・ジョビンの思い出を聞いた午後

9月21日(日)の午後には高田馬場イントロで坂尾英矩さんの二度目の講演会がありました。12日のAparecidaに続いて、坂尾さんの貴重なお話を堪能させていただきました。

今回の2回の講演会では、トム・ジョビンとも親交が深かった坂尾さんに、トムの思い出の一端を聞くことができたのも幸いでした。印象に残ったことを書き留めておきます。

坂尾さんの著書「ボサ・ノーヴァ詩大全」にも記述がありますが、坂尾さんは1950年代にトムのピアノのソロを初めて聴いた時(「思いあふれて」発表以前)に、「センテキのヤノピ」という言葉を思い出したそうです。「センテキのヤノピ」とは、進駐軍時代に学校の先生がアルバイトでジャズのバンドに参加している演奏などのことで、要するに「ジャズのセンスがない」という揶揄のニュアンスを含んだ言葉です。

「ジョビンのピアノはとてもうまかったし、センスもとてもあったけれど、この人はジャズの人ではないなと思った」と坂尾さん。

そして、そういうジョビンが生み出した音楽がジャズの影響を受けているはずはないとおっしゃっていました。「ボサノヴァがジャズ化したサンバというのは間違い。あえて言うなら、アメリカン・ポピュラー・ミュージックの影響を受けたサンバだ」と。ジョビン自身も、「ボサノヴァは誰が何と言おうと純ブラジルのものだ。サンバから生まれて、リオの海岸を歌った音楽が、どうしてジャズの影響を受けたと言われなければならないんだ」と憤慨していたとのことです。

さて、イントロの講演会のあとの二次会で、坂尾さんにいくつか質問させていただきました。その中でニュウトン・メンドンサについてお聞きした時のやり取りを書き留めておきます(録音していたわけではないのでちょっとニュアンスが違っているかもしれませんが(文責は岩切にあります))。

――ニュウトン・メンドンサについては思い出はありますか?

坂尾さん:話したことはなかったけれど、ピアノは聴いたことがあるよ。むすっとした、ずんぐりした体格の男だった。

――やはりセンスのあるミュージシャンだったんですか?

坂尾さん:センスはすごくあった。こいつは(僕たちのようなジャズ・ミュージシャンの)仲間だと思ったよ。ジョビンのような「センテキのヤノピ」じゃなくてね。

――ジョビンに与えた影響は大きかったんでしょうね?

坂尾さん:すごく影響を与えたはずだよ。だって、ボサノヴァの前のあの時期のジョビンの曲はすごく良いけれど、そのあとになるとつまらなくなってしまうよね。あとの方になるとクラシックみたいになってしまったりする。あの時期だけ突然変異的にあれほど良い曲が書けたはずはないよ。あれはニュウトン・メンドンサの影響だよ。ジョビンはそういうところはすごくうまいから、ニュウトン・メンドンサの良いところを取っちゃったんだと思うね。


ボサノヴァ誕生前後のブラジル音楽の現場を直接体験している坂尾さんならではの証言です。そして、トム・ジョビンの音楽を探究する上で、新しいヒントを与えてくれる事実だと思います。

*坂尾さんの講演の中には他にもたくさん「目から鱗」の話がありました。他にも紹介すべきことを思い付いたらまた書きます。貴重な機会を与えていただいたことに感謝します。

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2008年09月14日

坂尾英矩さんに「VERNACULIDADE」を教わった夜

9月12日(金)の夜は西荻窪Aparecidaで坂尾英矩さんの講演会。満員の盛況で、一時帰国中の坂尾さんのお話を拝聴できた大変貴重な機会でした(ご本人は「まだ100分の1も喋っていない」とおっしゃっていましたが)。

坂尾さんが繰り返し強調していた言葉が「VERNACULIDADE(ヴェルナクリダーヂ)」。この言葉によって、今まで僕が説明しようとして説明できなかったこと……なぜブラジル音楽だけがこれほど心を揺さぶるのか? そしてなぜ、同じブラジル音楽の中にも心を揺さぶる音楽とまったく心に響かない音楽が混在するのか?……の説明が簡単につくことが良くわかりました。

「VERNACULIDADE」をあえて日本語にすると、「その国特有の『らしさ』・その土地特有の『らしさ』」ということになるでしょうか? 坂尾さんは「秋田おばこ」の話でそれを説明していましたが、ブラジル音楽で言えば「ブラジル独特の味になっているかどうか?」が、何よりも重要なことです。

そして、坂尾さんはその「VERNACULIDADE」に関して、たとえば次のような説明をしていました。

(1)サンバを「アフロ」と形容するのは間違い。ポルトガルがブラジルに入ってから400年経ってからサンバが生まれたのだから、サンバはアフリカのどこにもない、もちろん中南米の他のどの国にもない、ブラジル独特の味のある音楽であることは当然。

(2)そのサンバの「VERNACULIDADE」、すなわちなぜブラジルだけが他のどの国にもない音楽を生み出せたのかと言うと、ブラジルはポルトガル語だから。ポルトガル語の独特のノリがメロディに乗って良い味を醸し出した。

(3)ボサノヴァはジャズの影響は受けていない。ボサノヴァが影響を受けたのは戦後のアメリカン・ポピュラー・ミュージック(それ以前はブラジルが影響を受けた文化はフランス一辺倒だった)。とりわけディック・ファルネイが持ち込んだビング・クロスビーふう(クールナー)の歌唱スタイル(それまではイタリア風の歌い上げる歌唱方法が主流だった)と、オーケストレイションの影響が大きい。

(4)トロピカリアには「VERNACULIDADE」が少ない。アイアート・モレイラは「ブラジル音楽を駄目にしたのはトロピカリア」と断言した。「ボサノヴァはリオで生まれて、サンパウロで育ち、バイーアで死んで、日本で生まれ変わった」は大島守さんの名言。ジルベルト・ジルは大臣就任の際に一曲演奏をと請われてなんとレゲエを唄った。

(5)渡辺貞夫さんはもちろんすばらしい演奏者だが、「ミーツ・ブラジリアン・フレンズ」を聴くと、ナベサダさんがブラジル音楽の「VERNACULIDADE」をわかっていないことがわかる。それは二拍子ではなくて、四拍子で考えているから。同じアルバムのカゼーの短いソロの方がはるかに「VERNACULIDADE」がある。ブラジル音楽は、(1)小さな一拍目と、(2)伸ばす強い二拍目の二拍子が基本。

などなど、どれもこれも僕が以前から感じていたことの鍵を解き明かしていただいて、大変勉強になりました。非常に濃密な、「本当の話」が聞けた夜でした。

坂尾さんの講演会はあと2回あります。以上の話にぴんときたブラジル音楽ファンは、ぜひお出掛けください。

9月20日(土)
鎌倉 cafe vivement dimanche
19:00〜21:00

9月21日(日)
高田馬場 イントロ
14:00〜17:00
posted by naoki at 09:13| Comment(21) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする