2008年09月14日

坂尾英矩さんに「VERNACULIDADE」を教わった夜

9月12日(金)の夜は西荻窪Aparecidaで坂尾英矩さんの講演会。満員の盛況で、一時帰国中の坂尾さんのお話を拝聴できた大変貴重な機会でした(ご本人は「まだ100分の1も喋っていない」とおっしゃっていましたが)。

坂尾さんが繰り返し強調していた言葉が「VERNACULIDADE(ヴェルナクリダーヂ)」。この言葉によって、今まで僕が説明しようとして説明できなかったこと……なぜブラジル音楽だけがこれほど心を揺さぶるのか? そしてなぜ、同じブラジル音楽の中にも心を揺さぶる音楽とまったく心に響かない音楽が混在するのか?……の説明が簡単につくことが良くわかりました。

「VERNACULIDADE」をあえて日本語にすると、「その国特有の『らしさ』・その土地特有の『らしさ』」ということになるでしょうか? 坂尾さんは「秋田おばこ」の話でそれを説明していましたが、ブラジル音楽で言えば「ブラジル独特の味になっているかどうか?」が、何よりも重要なことです。

そして、坂尾さんはその「VERNACULIDADE」に関して、たとえば次のような説明をしていました。

(1)サンバを「アフロ」と形容するのは間違い。ポルトガルがブラジルに入ってから400年経ってからサンバが生まれたのだから、サンバはアフリカのどこにもない、もちろん中南米の他のどの国にもない、ブラジル独特の味のある音楽であることは当然。

(2)そのサンバの「VERNACULIDADE」、すなわちなぜブラジルだけが他のどの国にもない音楽を生み出せたのかと言うと、ブラジルはポルトガル語だから。ポルトガル語の独特のノリがメロディに乗って良い味を醸し出した。

(3)ボサノヴァはジャズの影響は受けていない。ボサノヴァが影響を受けたのは戦後のアメリカン・ポピュラー・ミュージック(それ以前はブラジルが影響を受けた文化はフランス一辺倒だった)。とりわけディック・ファルネイが持ち込んだビング・クロスビーふう(クールナー)の歌唱スタイル(それまではイタリア風の歌い上げる歌唱方法が主流だった)と、オーケストレイションの影響が大きい。

(4)トロピカリアには「VERNACULIDADE」が少ない。アイアート・モレイラは「ブラジル音楽を駄目にしたのはトロピカリア」と断言した。「ボサノヴァはリオで生まれて、サンパウロで育ち、バイーアで死んで、日本で生まれ変わった」は大島守さんの名言。ジルベルト・ジルは大臣就任の際に一曲演奏をと請われてなんとレゲエを唄った。

(5)渡辺貞夫さんはもちろんすばらしい演奏者だが、「ミーツ・ブラジリアン・フレンズ」を聴くと、ナベサダさんがブラジル音楽の「VERNACULIDADE」をわかっていないことがわかる。それは二拍子ではなくて、四拍子で考えているから。同じアルバムのカゼーの短いソロの方がはるかに「VERNACULIDADE」がある。ブラジル音楽は、(1)小さな一拍目と、(2)伸ばす強い二拍目の二拍子が基本。

などなど、どれもこれも僕が以前から感じていたことの鍵を解き明かしていただいて、大変勉強になりました。非常に濃密な、「本当の話」が聞けた夜でした。

坂尾さんの講演会はあと2回あります。以上の話にぴんときたブラジル音楽ファンは、ぜひお出掛けください。

9月20日(土)
鎌倉 cafe vivement dimanche
19:00〜21:00

9月21日(日)
高田馬場 イントロ
14:00〜17:00
posted by naoki at 09:13| Comment(21) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なるほどそうだったんですか!
僕もその講演会に行きたいです。
「ミーツ・ブラジリアンフレンズ」
でのたとえ、良くわかります。
ぼくがスルドウという楽器にひかれたのも
まさに小さな一拍目と伸ばす強い二拍目
に強い情動を覚えたからです。
Posted by えんたつ at 2008年09月14日 16:37
ご無沙汰してました。

(1)と(3)と(4)と(5)に強く共感です。
その他のことはとても勉強になりました。

ありがとうございました。
Posted by クリントン at 2008年09月14日 20:13
ぴんときました。(5)が印象深いです。
前から自分の好きなブラジル音楽の基準は何だろうと考えていて、
2ビートのねじれるようなスィング感にあると漠然と思っていました。

坂尾英矩さんのボサ・ノーヴァ詩大全は以前興味深く読みました。
大島守さんの予言(ジョニーアルフのアニタオデイでいっぱいのレコード棚にびっくり)、アイアートモレイラの断言(ブラジル音楽を駄目にしたトロピカリア)、チックコリアの愚行 (「民族音楽家」ミルトンナシメントにブルースを強要)etc.
ジャズの無理解あるいは尊大な態度に対して、ジョビンによる執拗なジャズ影響の否定(山下洋輔さんの本より)を思い出しました。

9月21日(日) 高田馬場 イントロに行きます。
Posted by もあしるさんとす at 2008年09月16日 01:09
えんたつさん、クリントンさん、もあしるさんとすさん、コメントありがとうございます。

(5)に関して言うと、ナベサダさん(どうしても敬称をつけてしまう)のブラジル音楽には以前から違和感があって、どうしてモダンジャズやる時とこんなに違うのだろうと思っていました。でもそれは、米国のジャズ・ミュージシャンに共通している特徴だと思います。

今まで僕は、ジャズ屋がブラジル音楽に相対すると、オリジナルのメロディ(=歌がある)に対して、アドリブのイマジネイションの発想の違い(=歌がない)が露呈してしまうのだろうと思っていたのですが、結局、拍子の問題なのですね。ジョアン・ジルベルトのあのグルーヴがない。サンバのボルダォン、あの二拍目のサウダーヂがないから、間延びしてしまう。でもそれもまた「おさと」の問題で、仕方がないことです。

僕は土曜日は出張なので、ディモンシュには行けそうもなく(堀内さんごめん)、イントロには行こうと思っています。これ、本当に貴重な機会ですよ!

*もあしるさんとすさん、チック・コリアのその話、僕もどこかで読んだ気がするのですが、どこにあるかご存知でしたらご教示ください。
Posted by 岩切 at 2008年09月16日 01:45
岩切様ありがとうございます。菊池と申します。

図書館で借りたので今は持っていないのですが、チック・コリアの話は、坂尾英矩さんの「ボサ・ノーヴァ詩大全 」に載っていました。

「チック・コリアがブラジル公演のアンコールか何かで、即興でブルースを始め、歌えと言われて共演したミルトンはどうしていいかわからずずっと立っていた。」といった話だったと思います。

60年代サンパウロのクラブに出演していたバンドが、アメリカのジャズ・ミュージシャンが入ってくるとそれまで演奏していたブラジルの曲を止めて,ジャズの曲にすぐ変えたという逆のエピソードもありました。ナベサダさんとやるセサル・カマルゴ・マリアーノにしても、どうも合わせすぎて面白くないですね。CASA da BOSSAというライブアルバムの歌伴なんて私は最高に好きです。

イントロが楽しみです。
Posted by もあしるさんとす at 2008年09月17日 00:30
菊池さん、ありがとうございます。そうでした、坂尾さんの本にありました。お騒がせしました。
Posted by 岩切 at 2008年09月17日 01:14
こんばんは
本日、ご連絡が入ったと思いますが、明日の鎌倉講演は、台風のため中止になりましたですね。
Posted by おざき at 2008年09月19日 22:27
おざきさん、こんばんは。
本当にやらないのかな? 明日の午後には台風は通過していると思うけど。
でも水害とかはあとから来るということもあるから…配慮されたのかもしれませんね。
こちらは早朝から仙台に向かうので、とにかく早く行って欲しいです…。
Posted by 岩切 at 2008年09月19日 23:44
坂尾さんのお話を聴いて、Sergio Mendes66は65年まで持っていたVERNACULIDADEを払拭してアメリカに挑んだと思いました。
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