2010年01月11日

『ミーニャ・アルマ・カンタMinha Alma Canta』について

アントニオ・カルロス・ジョビンの『ミーニャ・アルマ・カンタMinha Alma Canta』がジョビン・ビスコイト・フィーノから再発売されています。このアルバムについては書籍でもブログでも紹介したことがなかったので、この機会に触れておこうと思います。

アルミール・シェヂアックのルミアール社から発売されていた『ソングブック』シリーズに、トム・ジョビンは積極的に参加していました。ノエル・ホーザ、ヴィニシウス・ヂ・モライス、カルロス・リラ、ドリヴァル・カイミ、エドゥ・ロボ、アリ・バホーゾ。1991〜94年に録音されたすべての『ソングブック』に参加しています。おそらくシェヂアックのこの企画の意図に大いに賛同していたのでしょう。シェヂアックにとってトムが最高の理解者だった様子が窺えます。もちろんそれ以前にトムにとってシェヂアックは最良の理解者であったわけですが。

それぞれのアルバムに1曲ないしは2曲収録されていたトム・ジョビンの演奏を1枚にまとめて発売されたのがこの『ミーニャ・アルマ・カンタMinha Alma Canta』でした。最初の発売は1997年だったと思います。それまで各アルバムにばらばらに収められていたトムの演奏が1枚で聴けるようになったので、ジョビン・マニアの間では重宝されていたアルバムでした。それが2009年になってジョビン・ビスコイト・フィーノから再発売されたというわけです。

1曲目はアリ・バホーゾの「ナ・バトゥカーダ・ダ・ヴィーダNa batucada da vida」(アリ・バホーゾの『Vol.1』に収録)。バンダ・ノヴァの演奏陣をバックにトムがピアノを弾きながら歌っています。一説にはトムのラスト・レコーディングとも言われている重要なトラックです(異説もあります)。この曲、『エリス&トム』の録音場面を収録した映像の中でトムが歌い出す場面があります。トムの長年のお気に入りだったのでしょう。

2曲目はノエル・ホーザの「トレス・アピトスTrês apitos」。バンダ・ノヴァをバックにトムがピアノを弾き語り、最後に女性コーラスが入ります。

続いてはエドゥ・ロボとシコ・ブアルキの「ショーロ・バンヂードChoro Bandido」(エドゥ・ロボの『Vol.1』に収録)。シコが歌っていて、トムもところどころ歌いながらピアノを弾いています。チェロの重奏が美しい。貴重なトラックです。

続いてのノエル・ホーザの「ジョアン・ニンゲンJoão Ninguém」は再びバンダ・ノヴァのバンドとコーラスをバックにトムがピアノを弾いて歌います。この曲の数ある演奏の中でもベストに挙げたい愛のある演奏です。

5曲目、トムとヴィニシウスの「ジャネラス・アベルタスJanelas abertas」(ヴィニシウスの『Vol.3』に収録)は、ガル・コスタのヴォーカルで、トムはピアノを弾いています。ガルは彼女にしては抑えて歌っています。間奏のトムのピアノにヴィニシウスへの想いが溢れています。

6曲目、カルロス・リラとヴィニシウスの「カリオカのサンバSamba do Carioca」(カルロス・リラに収録)はバンダ・ノヴァの楽しい演奏。そう言えばトムはこの曲を『カンタ・ヴィニシウス』でも歌っていました。

7曲目はアリ・バホーゾの「プラ・マシュカル・メウ・コラサォンPra machucar meu coração」(アリ・バホーゾの『Vol.2』に収録)。エドゥ・ロボが歌い、トムがピアノを弾きます。トムにとっては『ゲッツ/ジルベルト』から30年目の再録音ということになります。美しい演奏です。

8曲目はトムとヴィニシウスの「想いあふれてChega de saudade」(ヴィニシウスの『Vol.1』に収録)。バンダ・ノヴァの演奏で、アレンジは『イネーヂト』などと同じだと思いますが、このトラックはここでしか聴けないヴァージョンです。

9曲目のエドゥ・ロボとシコ・ブアルキの「ヴァルサ・ブラジレイラValsa brasileira」(エドゥの『Vol.1』に収録)はレイラ・ピニェイロが歌っています。トムはピアノ。なお、ブックレットには次の10曲目にもレイラ・ピニェイロの名前が書かれているのですが、これは誤植で、レイラが歌っているのはこの曲だけです。

10曲目はドリヴァル・カイミの「奇跡Milagre」(カイミの『Vol.1』に収録)。バンダ・ノヴァのまとまった演奏です。

11曲目はトムとヴィニシウスの「あなたなしでSem você」(ヴィニシウスの『Vol.3』に収録)。再びシコの歌で、トムはピアノです。説明不要。ここまで聴いてくると胸が一杯になってくる感じです。

12曲目、トムとヴィニシウスの「生涯かけてPor toda a minha vida」(ヴィニシウスの『Vol.3』に収録)はパウラ・モレンバウムの歌。チェロはジャキスで、『エリス&トム』でのヴァージョンを彷彿とさせるアレンジです。この曲、オリジナルのヴィニシウスのソングブックではジャキスとパウラの名前で収録されていて、トムがピアノで加わっているのは最初は発見できなかったものです。

13曲目はガルの歌で、トム=ヴィンの「さよならを言わなきゃならないÉ preciso dizer adeus」(ヴィニシウスの『Vol.3』に収録)。ピアノの音に独特の響きがあります。

最後はドリヴァル・カイミの「オ・ベン・ド・マルO bem do mar」(カイミの『Vol.3』に収録)。アナの歌にトムがピアノを付けながらハーモニーを歌っています。カイミも亡くなってしまった今となっては、本当にしんみりとしてしまう1曲です。このアルバムの唯一の欠点は、最後のこの曲が哀し過ぎることかもしれません。

トム・ジョビンのファンでいることのいちばんの淋しさは、新譜を聴くことができないことにあるのですが、そういう意味ではこのアルバムは普段ほとんど聴かれていない演奏を集めたものなので、未聴の方には絶好の贈り物になることと思います。編集盤ではありますが、上記のような意図で録音された演奏で構成されているので、全体の印象は非常に統一感があります。

なお、アルバムのタイトルはもちろんあの超有名曲の歌い出しの部分ですが、あの曲はトムのオリジナルですから、このアルバムには収録されていません。トムの愛唱曲を集めたという意味でこのタイトルが付けられているわけですが、聴き方によっては全体があの曲と同じく『リオ讃歌』のような仕上がりにもなっています。おそらくその意図もあるのでしょう。今さらながらアルミール・シェヂアックの丁寧な仕事に感心させられます。謹んで哀悼を捧げます。

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