2006年01月04日

パラ・ナォン・ソフレル

 『ファランド・ヂ・アモール』ファミリアス・カイミ・イ・ジョビン・カンタン・アントニオ・カルロス・ジョビンに収められているとても珍しい曲のもう一曲は、「パラ・ナォン・ソフレルPara não sofrer」という曲です。

 この曲のことはずいぶん前にも書いたことがありますが、今までにおそらく三回しか録音されたことのない曲です。(一)一九六二年四月に発売されたセリア・ヘイズの録音がおそらくオリジナル。その後、(二)ネリー・マルチンスという歌手が一九六二年五月に、(三)ジョルジーニョというフルート奏者が一九六三年に、それぞれの録音を残しています。あとに挙げた二つは『ハーロス・コンパッソスRaros compassos』で聴くことができます。

 今回の録音では、ジョビン家のパウロとカイミ家のドリがリード・ヴォーカル。velho riachoというサブタイトルが付けられています。

 で、この曲、聴けば聴くほど『オルフェウ・ダ・コンセイサォン』(一九五六年)のために作られた「ラメント・ノ・モーホLamento no morro」(のちに「ラメントLamento」という曲名で『ウェイヴ』にも収録)に曲想が似ています。もちろん異なる曲として仕上げられているのですが、一つのモチーフから派生した兄弟曲なのではないだろうかと思っています。

2006年01月03日

カンサォン・パラ・ミッシェル

 昨夜書いた『ファランド・ヂ・アモール』ファミリアス・カイミ・イ・ジョビン・カンタン・アントニオ・カルロス・ジョビンにとても珍しい曲が収録されているので、二曲を紹介したいと思います。

 まずはこの「カンサォン・パラ・ミッシェルCanção para Michelle」。もともとのタイトルは「シャンソン・プール・ミッシェルChanson pour Michelle」というフランス語。トムがミッシェル・ルグランのために書いた曲です。1985年の映画『時と風O TEMPO E O VENTO』のサウンドトラックにインストゥルメンタルで収録されています。

 そのほかに僕が知るかぎりでは、(一)MORELENBAUM2の『カーザ』に坂本龍一のピアノとジャキス・モレンバウムのチェロのデュエットで、(二)ルミアール社から出ているトムのソングブックのインストゥルメンタル編にセバスチァォン・タパジョスのヴィオラォンで、と、二回だけ録音されています。けれどもいずれもインストゥルメンタル。

 ところが今回はダニエル・ジョビンのピアノをバックにナナ・カイミが歌詞を歌っています。そしてトムの共作者としてホナルド・バストスというクレジットがあります。どうやら今回初めてホナルド・バストスによって歌詞が書かれたということのようです。

 トムは『時と風』の一部の楽曲でミッシェル・ルグランに編曲を頼もうとしていたのですが、プロデューサーの意向で実現しませんでした。ルグランとは1978年前後にヨーロッパで出会っているはずです。

2005年10月14日

トム・ジョビン最初の作品(3)

*質問をいただいて答えをまとめるのは良いですね。僕自身調べ直したりしてとても勉強になります。

その後、この曲は長らく取り上げられることはありませんでしたが、レオ・ペラッキの録音からちょうど四半世紀を経た一九八三年に、再び息を吹き込まれました。

ミゲル・ファリア・ジュニアが監督した『偉大な愛を生きるためにPara viver um grande amor』は、ヴィニシウス・ヂ・モライスとカルロス・リラのミュージカル『憐れな金持ち娘』のリメイクでしたが、この映画にトム・ジョビンは三曲を提供しました。そのうちの一曲が、「おまえが恋人になる時Quand a Tê ficar boa」すなわち「ムーンライト・ダイキリMoonlight daiquiri」にシコ・ブアルキが歌詞を書いた「イマジーナImagina」でした。ヴォーカルはジャヴァンとオリヴィア・バイントン。こうして、トムの「最初の作品」は現代に蘇りました。

その後、この曲は「イマジーナ」として知られるようになり、クアルテート・エン・シーほかにカヴァー・レコーディングされています。その中では『イネーヂト』の二枚目の冒頭のトム本人によるピアノ・ソロと、おそらくトムの最初の構想に近いと思われる『ジョビン・シンフォニコ』収録のマリオ・アヂネ編曲によるストリングスの演奏の2つが代表的演奏だと思います。いずれもインストゥルメンタルなのですが。

この曲、ラヴェル、リスト、ショパンなどの影響が指摘されています(確かにフランスの曲みたいだと思います)。トム・ジョビンのある一面が凝縮したような気品と華麗さのある曲。トムの若き日の何十何百もの習作の中で、この曲を「自分の最初の作品」として公言することにしたトムの意図はわかるような気がします。

*先日来お寄せいただいたeメールの中で、トム・ジョビンの好きな曲を一曲挙げていただいた二十名の中で、「イマジーナ」というお答えが3つもありました。これにはちょっと驚きました。こんなにマイナーな曲を……。日本のファンは、すごいと思います。

2005年10月13日

トム・ジョビン最初の作品(2)

*この話、続きがまだでした。

さて、初めてこの曲を録音したのは、この時代のラジオ番組の人気指揮者、レオ・ペラッキでした。

トム・ジョビンとも親交が深かったレオ・ペラッキは、一九五八年にオデオンに『カクテルズCoctails』というアルバムを彼と彼のオーケストラ名義で録音しています。このアルバムの中で、トムの曲は三曲演奏されています。「ムーンライト・ダイキリMoonlight daiquiri」、「ラテン・マンハッタンLatin manhattan」、「コーヒー・デライトCofee delight」の三曲です。

このうちの「ムーンライト・ダイキリ」という曲が、「Quand a Tê ficar boa(おまえが恋人になる時)」に当たります。なお、あとの二曲は僕はこのレオ・ペラッキの演奏でしか聴いたことのない曲です。

ちなみにこのアルバムに収録されているほかの曲名を見ると、ヴァヂーコの「ドライ・コパカバーナDry Copacabana」とか、アロイージオ・ヂ・オリヴェイラの「リオ・マルチーニRio martini」とか、ルシアーノ・ペホーネの「バチーダ・ヂ・マラクジャBatida de maracujá」とか、ボビー・ブラックの「Carnaval cocktail」とか、要するにカクテルを連想させる曲名で統一されています。このコンセプトに従って「おまえが恋人になる時」という曲名は「ムーンライト・ダイキリ」に変更されたようです。なお、この時までトムはこの曲に「ヴァルシValse」というタイトルを付けていたという説もあります(ヴァルシというのはワルツのことです)。

このレオ・ペラッキの演奏はトムの曲の初期の録音を集めたCD『ハーロス・コンパッソスRaros compassos』の三枚目で聴くことができます。今の耳にはちょっと聴くのが辛い演奏かもしれません。アレンジが懲り過ぎていて、曲の美しさをかえって殺してしまっているような気がします。

*続きます。

2005年10月08日

トム・ジョビン最初の作品(1)

*たくさんのEメールをありがとうございます。尾崎さんからご質問をいただいたので、この場でわかる範囲で答えさせていただきます。

トム・ジョビンが作曲を始めたのは16歳くらいの頃だったようです。でも、彼が「自分の最初の作品」として認定したのは、18の時に作曲したワルツでした。トム本人はこの曲に「Quand a Tê ficar boa(おまえが恋人になる時)」というタイトルを付けようとしました。Tê(おまえ)とは当時の恋人、のちの夫人のテレーザ・オテーロ・エルマニーのことでした。

ところが当時のトムの音楽教師のルーシア・ブランコがこの曲名を認めませんでした。おそらく曲に対してタイトルがあまりにも安っぽ過ぎると考えたのではないかと思います。でもルーシア・ブランコはこの曲によってトム・ジョビンの作曲の才能を認めました。そして、ピアニストを目指していたトムに、あなたはピアニストよりも作曲家になるべきだとアドヴァイズしました。

*長くなりそうなので続きはまた後日にします。引っ張って申し訳ありません。

2005年09月02日

ブラジリア、暁のシンフォニー(3)

どこかにあったはずだと思って、探して、見付かりました。「ラティーナ」2003年7月号に、中原仁さんによるマリオ・アヂネのインタヴューが掲載されています。『Jobim sinfônico』についても言及しているのですが、『Brasilia, Sinfonia da Alvorada』の最終楽章をカットした件については、残念ながら何ひとつ触れていません。

まあ、マリオ・アヂネにしてもパウロ・ジョビンにしても、この件についてはあまり良心の呵責はなかったのかもしれません。第四楽章まで再演するだけでも大変だったのでしょうからね。でもそこに、偉大なるアーティストと、そこそこできのいいミュージシャンとの間の、決定的な違いが見え隠れしているような気がします。

このレコードに関してもう一つ、今度はこのオリジナルの『Brasilia, Sinfonia da Alvorada』の方にも「怪しい」ことがあります。というのは、第三楽章の「カンダンゴの到着」のラストが、なんと、フェイドアウトされているのです。

さて、ではこの『Brasilia, Sinfonia da Alvorada』という交響曲が現代のクラシック音楽(というややこしい表現はもう世界的にどうしようもないことです)に燦然と光り輝く名作かどうかと言うと……まあ、そんなことはないでしょうね。そこそこ良くできているとは思いますが、特別に感銘を受けるような作品ではありません。

以前に「ヴェージャ」のトム・ジョビン追悼号のことを書きましたが、そこで述べられていたように、トム・ジョビンはトム・ジョビンとして後世に名を残す人なのだと思います。第二のベートーヴェンとかではなくて。


2005年09月01日

ブラジリア、暁のシンフォニー(2)

 幻のシンフォニーと化していた『Brasilia, Sinfonia da Alvorada』は、二〇〇二年十二月九日と十一日にサンパウロ州立交響楽団によって再演されました。指揮はホベルト・ミンザック。企画したのはパウロ・ジョビンとマリオ・アヂネで、そのコンサートの全貌は『Jobim sinfônico』というDVDとCDに収められました。僕もこの『Jobim sinfônico』で初めて『Brasilia, Sinfonia da Alvorada』を聴きました。

 でもその時にとても気になって、「愛と微笑みと花」にもそう書いたことが、やはりその通りだったと、このオリジナル盤を忠実に再現した復刻盤を聴いてわかりました。というのは、『Brasilia, Sinfonia da Alvorada』は第五楽章まであるのですが、『Jobim sinfônico』では第四楽章までしか演奏されていないのです。

 うーん、そんなのってあるかなあ。内容の良し悪しとか好き嫌いとかに拘らず、それはちょっとないだろうよと、一つの楽章を丸ごとカットするなんて、交響曲を演奏したことにはならないだろうよと思ってしまいます。想像するに、第五楽章の「合唱」は男女混声合唱のパートを含むので、これを演奏するにはそれなりの合唱隊が必要で、それはちょっとコストが掛かる……ということだったのではないかと思います。でも、それ、トム・ジョビンが知ったらどう思うでしょう? 「演奏しない方がましだ!」って怒らないでしょうか?

 あと、オリジナルにはヴィニシウス本人による詩の朗読が入っています。一部オスカー・ニーマイヤーも台詞を読んでいます。

 それから演奏そのものは、このオリジナルのオーケストラ(「アントニオ・カルロス・ジョビン指揮の交響楽団」としか記載がありません)の方が、『Jobim sinfônico』のサンパウロ州立交響楽団よりも表情が細やかで、色彩が豊かで、好感が持てます。

2005年08月31日

ブラジリア、暁のシンフォニー(1)

 ディスコグラフィを眺めては、「こんなレコードには一生巡り合うことがないだろうなあ」と思っていたレコードと、ばったりと巡り合ってしまいました。

 そのレコードとは、『Brasilia, Sinfonia da Alvorada』。詳細は僕の「愛と微笑みと花」を読んでいただきたいのですが、一九六一年四月二十一日のブラジリア開幕記念式典のために、トム・ジョビンが作曲、ヴィニシウス・ヂ・モライスが作詞した、ジョビン唯一のシンフォニーです。

 ただ、今回入手したのはオリジナル盤ではなくて、一九八三年のブラジリア23周年を記念した復刻盤。ジャケットもあのオスカー・ニーマイヤーのチャーミングなイラストではなくて、ピアノを弾いているトム・ジョビンを上から写した写真です。

 もちろん何万円もするものは買えないのですが、1万円出して半分くらいお釣りが来る価格だったので、まあこれは僕には一生もんだからと自分に言い聞かせながら買いました。

 で、いろいろと面白いことがわかったので、それはまた書き込みます。

2005年08月22日

マリア 私の愛

谷川理恵『夏の手紙』というCDを譲ってもらいました。「トム・ジョビンが一曲提供していますから聴いてみてください」と。

この歌手がどんな歌手なのかわからないし、その「トムの曲」以外は聴いていないので本当に何もわからないのですが、トムはこういう歌手にも曲を書いたりしたのでしょうか? ちょっと信じられないですが。確かに晩年は小銭稼ぎみたいな作曲もたくさんしていたのは事実ですが…。

曲名は「マリア 私の愛」。そう言われて見ればそういう雰囲気もある……かなあ。1992年の録音みたいです。

2005年03月10日

ウェイヴ

(続き)

トム・ジョビンを長らく聴いているうちに、以前は何気なく聴いていた『ウェイヴWave』というアルバムが、何だかすごく「変」なアルバムであるように思えてきました。その続編の『タイドTide』も変なのですが、やはり『ウェイヴ』の方がずっと変。

その最大の理由は、大半の曲の大半の部分が当初からインストゥルメンタルとして取り扱われることを目的としていることにあるような気がします。トムがずっと創ってきた「歌」ではないんですね(「トリスチTriste」などはまた別なのですが)。それと、クラウス・オガーマンのアレンジによる各曲のテーマ部分のデフォルメがとても強烈だということもあるのですが、この問題は今は脇に置いておきます。

そして、「アントニオ・カルロス・ジョビン ボサノヴァを創った男」を読むと、このアルバムの大半の曲が1965年ごろにアメリカで書かれたものであることがわかります。「モハーヴェMojave」「アンティグアAntigua」などは、カリフォルニアからニューヨークに列車で向かう時に目にした景色にインスパイアされた曲であることがわかります。

アントニオ・カルロス・ジョビンによる米国の心象スケッチ。僕の『ウェイヴ』に対する印象を要約するとそういう言葉になります。

2005年03月09日

モハーヴェ

トム・ジョビンの『ウェイヴWave』のB面一曲目に「Mojaveモハーヴェ」という曲が入っています。

僕は、モハーヴェというのはロサンゼルスからラスヴェガスにかけてのある程度限定された範囲の砂漠のことだと考えていたのですが(ロサンゼルスの北100キロちょっとのところにモハーヴェという街もあるもので)、先週ロサンゼルスからパームスプリングスにかけて走った時に、それが結構広大な砂漠なのだと知りました。以下、ウィキペディアからの引用です。

「モハーヴェ砂漠とはアメリカ南西部のカリフォルニア州、ユタ州、ネヴァダ州、アリゾナ州にまたがる砂漠。 面積は35,000 km² 以上。 テハチャピ山脈、サンガブリエル山脈、サンバーナディノ山脈が西と南の境界になっている。 標高は1,000から2,000 m程度で年間降水量は150 mm以下である」

どんなところか? 興味がある人は映画「バグダッド・カフェ」を観てください。そうです。あんなところです。

地図を眺めるとあちこちにゴーストタウンがあって、ちょっとわくわくするのだけれど、実際に走ってみるとうんざりするような荒涼としたところです。(続く)



2005年01月15日

そしてクアルテート004とトム・ジョビンの共演盤の感想

で、昨日書いたクアルテート004の『Retrato em branco e preto』の、トム・ジョビンが参加した四曲の感想です。

A−1 Retrato em branco e preto
 編曲・指揮・共演:アントニオ・カルロス・ジョビン。トムの録音やシコの録音やジョアンの録音の原点までもがここにあります。この曲の節回しや間合いがこの時点ですでにどれだけ譜面に書かれていたかがわかります。トムのピアノの「手くせ」も堪能できるトラックです。

A−2 Bom tempo
 編曲・指揮・共演:アントニオ・カルロス・ジョビン。イントロのトムの「ウン、ドイス、トレス」だけで幸福な気分に。

A−3 Canção do encontro
 編曲:エウミール・デオダート、指揮:アントニオ・カルロス・ジョビン。英題「ジェントル・レイン」です。ロマンティック。

B−1 Vou te contar
 編曲・指揮・共演:アントニオ・カルロス・ジョビン。歌詞がついたのはこれが初めてだったかもしれません。後年聴かれるトムのアレンジの原点もここにあります。

で、クアルテート004ですが、ほとんど男声版クアルテート・エン・シーです。ボサノヴァからMPBに移っていく途上の絶妙の瞬間の記録がここにあります。

2005年01月14日

クアルテート004とトム・ジョビンの共演盤

先月、「レコード(LP)1枚に出せる金額は1万円まで」と書いたのですが、昨日、とうとう1万円以上出してしまいました。1万3千円払ってしまいました。

そのLPは『Retrato em branco e preto(白と黒のポートレート)』。男声コーラスのクアルテート004のレコードで、トム・ジョビンが編曲、指揮、演奏で四曲に参加しているのに、ほとんどのディスコグラフィで無視されているレコードです。録音は一九六八年。一曲にはシコ・ブアルキも参加しています。

以前に二度ほど見かけたことがあって、その時は「高い」と思って買わなかったのですが、今回はちょっと値が下がっていたこともあって、我慢できずに買ってしまいました。

このクアルテート004、ほとんど録音を残していない幻のコーラス・グループなのですが、クララ・ヌネスの『A BELEZA QUE CANTA』(一九六九)に一曲参加しているのをさっき見つけました。あと、この『白と黒のポートレート』でトムと共演した4曲のうち3曲は『DISCOMUNAL』にも収められています。

僕にとっては非常に興味深いレコードが手に入って喜んでいます。CD化されて誰でも手軽に聴けるようになると良いですね。

2005年01月08日

9 ポルト・ダス・カイシャスのワルツValsa do Porto das Caixas

ポルト・ダス・カイシャスのワルツValsa do Porto das Caixas

 パウロ・セーザル・サハセーニ監督の一九六二年の映画「ポルト・ダス・カイシャス」のために作られた曲。一九六四年録音の『ザ・ワンダフル・ワールド・オヴ・アントニオ・カルロス・ジョビンThe wonderful world of Antonio Carlos Jobim』に収められている。このアルバムの編曲はネルソン・リドルが担当しているが、この曲のみはトムのオリジナルの編曲をそのまま採用しているという。

 このほかにはマリオ・アヂネの『トゥー・カイツTwo kites』、チボー・デロルの『ノ・トム・ダ・イストリアNo Tom da história』でも聴くことができる。なお、『ハーロス・コンパッソスRaros compassos』の三枚目にボーナス・トラックとして「Derradeira primavera/Valsa Porto das Caixas」という記載があるが、実際にここで聴けるのは「Derradeira primavera」のみなので、これは何かの間違いだと思われる。。

 トム・ジョビンの数ある曲の中でも一、二を争う不思議で幻想的なテーマの曲。どことなくエリック・サティを連想させる。

2005年01月07日

8 我が友ハダメス

 最近、といっても一ヶ月くらい前ですが、あるレコード店でたまたま手に取って、眺めているうちに「これは!」とはっとして慌てて買ったCDがあります。

『Radamés Gnattali』というそのアルバムは、一九八五年にFUNARTE(国立芸術財団)の後援によって制作されたLPの復刻盤。オリジナルのレコードのタイトルは『Meu amigo Radamés』といったはずです。CDで復刻されているとは知らなかった。まさか手に入るとは思っていなかった一枚です。価格は1000円前後でした。

 このアルバムの一曲目に、トムがハダメス・ジナタリのために作曲した「我が友ハダメスMeu amigo Radamés」というショーロが入っています。この曲は『アントニオ・ブラジレイロAntonio Brasileiro』に収められているのでそれほど「珍しい」感じはしないのですが、オリジナルのこの演奏はさまざまな意味で貴重。第一に、これはおそらく、トムとハダメスのピアノのデュオなのです。そしてまたこの演奏が実に美しい。

 この曲はそのほかには、『ジョビン・シンフォニコJobim sinfônico』、チボー・デロルの『ノ・トム・ダ・イストリアNo Tom da história』、『アントニオ・カルロス・ジョビン ソングブック・インストゥルメンタルAntonio Carlos Jobim/Songbook Instrumental』、山下洋輔の『ストーン・フラワー』にも収められています。

 で、この『Radamés Gnattali』というアルバムなのですが、「我が友ハダメス」の次にハダメスがトムにお返しに作った「我が友トム」というお茶目な曲が入っていたりします。おまけにパウリーニョ・ダ・ヴィオラがカヴァキーニョで参加していたりします。

 でもこのアルバムを紹介してるディスコグラフィはほとんどないんですよね。これだからレコード探しは自分の勘と経験が何よりの頼りです。

 特に勘。

2005年01月06日

7 ソーニョ・ヂスフェイトSonho desfeito

ソーニョ・ヂスフェイトSonho desfeito(ペー・グランヂPé grande)

 アルマンド・カヴァルカンチ、パウロ・ソレダーヂと共作した一九五六年の作品。なかなかエキゾティックな楽しいメロディだが、これも非常に珍しい曲で、僕が知るかぎりでは二つのヴァージョンしか存在しない。

 一つは『メウズ・プリメイロズ・パッソス・イ・コンパッソスMeus primeiros passos e compassos』に収録されているビル・ファーのヴォーカル。もう一つは同じアルバムに「ペー・グランヂ」という異名同曲として収録されているハウル・ヂ・バーホスのトロンボーン。どういう経緯でこの曲がこのような異なるタイトルで録音されたのかは不明である。

 なお、アデルモ・リーマとレオネル・アゼヴェンドが作った「ソーニョ・ヂスフェイト」という同名曲が存在するようなのだが、僕はその曲を聴いたことがない。

2005年01月05日

6 算数の授業aula de matematica

算数の授業aula de matemática

*久し振りにトムの秘曲・幻曲・珍曲を。これは僕が10年くらい掛けて完成させていきたいと考えているトム・ジョビンの全曲解説の一部です。

 コアラ・レコードから二〇〇四年十二月に発売されたクラウディア・テリスの『サウダーヂス・ダ・ボサノヴァSaudades da Bossa Nova』にこの曲が入っている。このアルバムは彼女の二枚のアルバムから選曲されている日本独自の編集盤だが、この曲は未発表だったボーナス・トラックだという。

 マリーノ・ピントとの共作。初録音は一九五八年のカルロス・ジョゼで、そのあとすぐにシルヴィア・テリスが彼女の二枚目のアルバム『シルヴィアSilvia』(オデオン MOFB3034)(12インチとしては初めてのレコード)に収録して有名になった。クラウディア・テリスのこの選曲はもちろん母親のその歌唱を意識してのものなのだろう。しかしオリジナルのシルヴィアの、編曲と一体になった見事な歌唱は今聴いても輝いている。

 その後、一九七九年の『ミウーシャ&トム・ジョビンMiucha & Tom Jobim』(RCA1031314)にも収められている。あとは、一九五九年のエリゼッチ・カルドーゾ、一九六八年のマルシア、一九九八年のオスカル・カストロ・ネヴィスとポール・ウィンター、二〇〇〇年のエミリオ・サンチアーゴ、といった録音がある。


2005年01月04日

トム・ジョビンのラスト・レコーディング

ジョビン・ミュージックの「カンシオネイロ・ジョビン」によると、トム・ジョビンのラスト・レコーディングはアルミール・シェヂアック(最近残念な亡くなりかたをしてしまいました)のルミアール社の「ソングブック」シリーズの一つ、アリ・バホーゾ作品集に残した「ナ・バトゥカーダ・ダ・ヴィーダ」のようです。一度録音したトラックが気に入らなくてシェヂアックに申し出て録り直したのが1994年9月28日。これがまたすごくチャーミングな演奏。で、このあと体調が悪くなってジョン・ヘンダーソンと予定していた録音をキャンセルしています。

ところで、トム・ジョビンはこの「ソングブック」シリーズではほとんど皆勤賞だったようで、ノエル・ホーザ編では「トレス・アピトス」と「ジョアン・ニンゲン」、カルロス・リラ編では「サンバ・ド・カリオカ」、エドゥ・ロボ編では「ショーロ・バンヂード」(シコ・ブアルキと)と「ヴァルサ・ブラジレイラ」(レイラ・ピニェイロと)、ドリヴァル・カイミ編では「ミラグレ」、ヴィニシウス編では「シェガ・ヂ・サウダーヂ」そのほかを録音しています。いずれも自己のアルバムとはちょっと違ったトムのご満悦振りが伝わってくるような録音です。トムのパフォーマンスをこういうアルバムで聴けるのは何だかすごく「贅沢」な感じがします。特にノエル・ホーザのソングブックなど、若い人に聴いて欲しいですね。

で、肝心のトムのソングブックは予定が大幅に遅れて1995年と96年に……つまりは彼の死後に録音されました。CD5枚から成る大作で、シェヂアックと各ミュージシャンのトムに対するオマージュが伝わってくるすばらしい作品です。

2004年11月13日

5 パラ・ナォン・ソフレルPara nao sofrer

パラ・ナォン・ソフレルPara não sofrer

 トムの単独作品。僕が調べた範囲では三つのヴァージョンが残されている。

(一)一九六二年四月に発売されたセリア・ヘイズの録音がおそらくオリジナル。でも僕はこの歌唱を聴いたことがない。

(二)ネリー・マルチンスが一九六二年五月に録音した同年発売のヴァージョン(RCAヴィクター 80.2465B)は、『ハーロス・コンパッソスRaros compassos』の三枚目で聴くことができる。曲想はユニークなのだが、このネリー・マルチンスという歌手がごくごく当たり前に歌ってしまっているのが惜しい。編曲はオルガンをフューチャーしている。

(三)フルートのジョルジーニョの一九六三年の録音(RCAヴィクター LP-CALB-5067)でもオルガンがフューチャーされている。これまた『ハーロス・コンパッソス』の二枚目で試聴可能。

2004年11月12日

4 フラーゼ・ペルヂーダFrase perdida

フラーゼ・ペルヂーダFrase perdida

 マリーノ・ピントとの共作。これもおそらく録音されたことは一回しかなくて、そのエルナーニ・フィーリョの七十八回転盤(オデオン14226A)のヴァージョンが『ハーロス・コンパッソスRaros compassos』に収められている。一九五七年四月録音、同年七月発売。

 典型的なサンバ・カンサォンで、ちょっと大げさなくらいにドラマティックな曲想の作品なのだが、これはこれで悪くないと思う。現代ふうにアレンジしたらとても魅力的な曲として生まれ変わるのではないだろうか?