2016年08月06日

リオオリンピック開会式

僕にとってのハイライトは、「サンバ・ド・アヴィアォン」が流れていると思ったら、ダニエル・ジョビンが出てきて「ガロータ・ヂ・イパネマ」を歌い始めたシーンだった。トムのポートレイトがあんなに大きく……。そしてスーパーモデルのジゼル・ブンチェン(エロイーザ役だが水着ではない)の足元にオスカー・ニーマイヤーの曲線が現われては消える……。
そうなんだよね。この曲は、根っからの女好きで、中年に差し掛かっていたトムとヴィニシウスの女性賛歌なんだよね。基本的にエッチな歌なんだ。ヴィニシウスの最初の歌詞には「bunda」という語があったとかなかったとか、そんな話があったよね。
そしてここはマラカナン。どうしても思い出すのは、この隣のマラカナンジーニョで開かれたフェスティヴァルで、トムとシコの「サビアー」に不当なブーイングが浴びせられたという出来事。1968年のことだと思うから、48年前だ。ほぼ50年後のマラカナンの「ガロータ・ヂ・イパネマ」の大合唱。朝から泣いてしまった。

2006年08月04日

『アオス・メストレス・コム・カリーニョ』シルヴィオ・セーザル

シルヴィオ・セーザルの1992年のアルバム。ブラジル音楽のメストレス(巨匠)の作品を、時にはそのメストレス本人とデュエットしながら、一人につき3〜5曲をメドレーにまとめて歌うという企画盤。

トム・ジョビンについては、「エスチ・セウ・オリャ」「ソ・エン・セウス・ブラッソス」「ヴィヴォ・ソニャンド」「トリスチ」の四曲のメドレーを本人とデュエットしています。

まずは二人が交互に「エスチ・セウ・オリャ」を歌い、続いてシルヴィオ・セーザルが一人で「ソ・エン・セウス・ブラッソス」を歌います。「ヴィヴォ・ソニャンド」は二人でハモって、「トリスチ」はシルヴィオ・セーザルが歌い始めて途中から二人一緒に歌います。「エスチ・セウ・オリャ」に戻って、トムがバック・コーラスを付け、エンディングではまた「トリスチ」と「ヴィヴォ・ソニャンド」を引用します。

四曲まとめてもとても短い演奏だし、特筆すべきことはあまりないのですが、「エスチ・セウ・オリャ」などはトムの歌声が聴けるのは珍しいのではないかと思います(ほんの一節だけですけれど)。トムの歌そのものはいつもの通りです。でも機嫌はすこぶる良さそうです。

音作りは典型的なMPBなのですが、素材が良いせいか、全体的に好印象の一枚。シコやダニーロ・カイミも参加しています。

僕は前からCDは持っていたのですが、つい先日LPを入手したので思い出してここに書きました。曲順がまったく違うのにちょっとびっくりです。

参考

2006年07月01日

ソングブック カルロス・リラ

トム・ジョビンが参加しているルミアールのソングブックの中でもいちばん地味で注目されていないのがこれではないかと思います。カルロス・リラのソングブックの冒頭で、「サンバ・ド・カリオカ」を歌っています。

1993年の録音ですが、トムのヴォーカルも好調で、バンダノヴァの息がぴたりと合っています。この曲、『ヴィニシウスを歌う』でも演奏していますが、あのしんみりした空気とは対象的な印象の好演です。演奏時間が短いのがもったいないくらいです。

それにしてもいつもながら豪華なメンバーの一枚です。カエターノ、ジョアン・ボスコ、ジル、ガル、などなど。リラ本人は小野リサと「マリア・ド・マラニャオン」を歌っています。

http://www.submarino.com.br/cds_productdetails.asp?Query=ProductPage&ProdTypeId=2&ProdId=262807&ST=SE&franq=2009

2006年06月30日

デューク・ピアソンの「キャプテン・バカルディ」

東京にいない日が多かったりして、ここのところサボってばかりいて申し訳ありません。

デューク・ピアソンのブルーノートのCDを「これ知らないなあ」と何気なく買ってきて聴いたら、これが未発表曲集で、ブラジル度がとても高かったので驚きました。

アイルト・モレイラやフローラ・プリンが参加していて、演奏曲目も、「カント・オッサーニャ」「ウ・アモール・エン・パス」「ウッパ・ネギーニョ」あたりはまだわかるのですが、何と、トム・ジョビンの「キャプテン・バカルディ」を演奏しているので驚きです。

この曲、エレーナ・ジョビンの最初の旦那のパウロに捧げられた曲。そのパウロ・ヂ・サウザ・バーホスという人は若くして交通事故で亡くなったのですが、トムとは伝説的なスポーツクラブ「シニョジーニョ」のメンバーだった頃からの付き合いだった……などと書いてもほとんどの人は興味ないですね。すみません。

アルバム・タイトルは『アイ・ドント・ケア・フー・ノウズ・イット』。デューク・ピアソンと言うとどうしても初期のピアノ・トリオが印象深いのですが、このあたりの録音もブラジルがかっているものはなかなか面白いです。録音は1970年。フュージョンの先駆けですね。

ちなみにこのアルバム、「ローズマリーの赤ちゃん」なんかも入っています。

2006年06月02日

『アノス・ドラードスANOS DOURADOS』サウンドトラック

トム・ジョビンは後期にはテレヴィドラマのテーマ曲や挿入曲を何曲も書いています。ブラジルのミュージシャンにとってテレヴィドラマは非常に割の良い仕事のようで、サウンドトラックの片隅に今でも驚いてしまうようなメンバーの演奏が発見できることがあります。

トムが参加したテレヴィドラマのサウンドトラックでいちばんヒットしたのがこれだと思います。「アノス・ドラードス」。もともとはこのインストゥルメンタルがオリジナルで、このあとにシコ・ブアルキが歌詞を書いて、最初にマリア・ベターニャが歌ったように記憶しています。そのあとにトムの『パッサリン』が発売になって、トムの英語の歌とシコのポルトガル語の歌が聴けたのだったと思います。

このレコードでの演奏ですが、オーケストラをバックにトムがピアノを弾いているもので、特にどうということはないのですけれど、トムはいつになく張り切って弾いているように思えます。

しかし平凡なボレロになるところを、すんでのところで輝きのある曲にしている不思議な一曲です。

2006年06月01日

ノアの箱舟2

ヴィニシウス・ヂ・モライスの遺作となった「ノアの箱舟」にトム・ジョビンは「a cachorrinha」という小品を提供(歌詞はヴィニシウス)。アナ、ベッチ、エリアンニの女性コーラスの後ろで自らもピアノを弾いています。まあ、どうということのない曲なのですが。

「ノアの箱舟」は子供向けのミュージカル。このレコード、全編が動物の曲で占められています。ヴィニシウスは息子のペドロのためにこの作品を仕上げている最中に亡くなりました。トムはしばらく非常に落ち込んでいたそうで、しっとりした味わいのあるピアノを弾いています。

トムのこの曲が入っているのは「2」の方なのでお間違えなく。

http://cliquemusic.uol.com.br/artistas/artistas.asp?Status=DISCO&Nu_Disco=9649

2006年05月08日

『ブラジリアン・マンシーニ』ジャック・ウィルソン(後)


*さて、昨日の続きです。

ところでジャック・ウィルソンというピアニストは、ブルーノート盤『イースタリー・ウィンズ』がちょっと知られているくらいなのですが、そちらは「ド」がつくくらい元気なハードバップ。リー・モーガン、ジャッキー・マクリーン、ガーネット・ブラウンの三管を従えて、むしろジャズロックに近い、どちらかと言うと『サイドワインダー』みたいなレコードになっています。

ところがその録音はどうも彼の本意ではなかったそうで、アトランティックに吹き込んだ『ジャック・ウィルソン・カルテット』などではまったく異なる表情を見せています。タッチもとても丁寧。ここでは「コルコヴァード」を演奏していて、この解釈がなかなかユニーク。もしかしたらトム・ジョビンはこの演奏を気に入って、二人の親交が始まったのかもしれません。

ちなみにジャック・ウィルソンはブルーノートの『ソング・フォー・マイ・ドーター』というアルバムでは「Se Todas Fossem Iguais A Voce」(ママ)を演奏しているのですが、米国流のタイトルを用いないで、ちゃんとこのように表記していて、作者としてもトムとヴィニシウスの名前を登録しています。これはとても好ましいことです。

ともあれ、トム・ジョビンの長い長いキャリアの中にこういうアルバムが残されているのはファンにとってはとても喜ばしいことです。僕たちは録音されたものに耳を傾ける以外に彼の音楽に触れる方法はないのですから。

ぜひともCDで再発売して多くの人に聴いていただきたい一枚です。今まで一度もその痕跡がないのは、VAULTというレーベルは権利の問題がよほど難しいのでしょうか?

この件はこれでおしまい。あと、フイ・カストロによる解説はこちらです。


2006年05月07日

『ブラジリアン・マンシーニ』ジャック・ウィルソン(中)

*昨日の続きです。

ジャック・ウィルソンはピアニストです。トム・ジョビンももちろんピアニストです。それでトムはこのアルバムにヴィオロニスタとして参加しています。

トム・ジョビンのファンとしては、ほとんど笑ってしまうような話です。トムのような名ピアニストにピアノを弾かせないで、ヴィオラォンを弾かせるなんて、一体全体どういうつもりなんだと。

トム自身、このアルバムのことをこういうふうに言っています。

「アメリカ人にとってブラジル人はラテンの恋人なんだ。そしてラテンの恋人はヴィオラォンを演奏しなくちゃならないんだ」

ところが、レコードに針を落としてみると、この演奏がすばらしいのです。

「トム・ジョビンはヴィオラォンの名手説」は、この欄でも多くの方にご賛同いただいている「事実」なのですが、もしかしたら彼のヴィオラォンをいちばん堪能できるのがこのアルバムかもしれません。

ほとんど前面に出ることはなく、ずっとサポートに徹していて、派手なところはまったくないのですが、こんなに適確なジャズ・ボッサのギターは聴いたことがないと言っても良いくらいです。絶妙の間合い。ぶれがまったくない。本当にうまい。トム・ジョビンがヴィオロニスタとして参加しているアルバムの中でも、このアルバムにおける演奏は特に見事だと思います。

アルバム全体は、ヘンリー・マンシーニの退屈なナンバーが並んでいて、それをほとんどメリハリなく、室内楽的に演奏しているのですが、それがかえって効を奏しています。誰一人でしゃばっていないし、どの曲も同じみたいに聴こえます(笑)。でも、繰り返して聴いても味わいの落ちない、好盤だと思います。中庸の勝利。そしてもちろんその中でトム・ジョビンのサポートはアクセントと表情を与えています。

(続く)

2006年05月06日

『ブラジリアン・マンシーニ』ジャック・ウィルソン(前)

*今朝入浴していたら、ものすごい羽音がして、危ないと思って慌てて窓を閉めると(僕は晴れた日には窓を開けて入浴しています)、なんと換気口からくまんばちが浴室に入り込んできました。非常に無防備な状態だったので、一人でパニックに陥ったのですが、すぐに入ってきたところから自分で出て行ってくれました。怖かった。死ぬかと思いました。

さて、ゴールデンウィークらしく、「あ、こんなところにマエストロが!」の特別版を。

アントニオ・カルロス・ジョビンのリーダー・アルバムを買い集めていって、共演者として参加しているアルバムもぼちぼちと買い足していくと、やがてとても気になるアルバムが現われてきます。それがこのアルバムです。

リーダーはジャズ・ピアニストのジャック・ウィルソン。ヴァイブラフォンはロイ・エアーズ。シコ・バテーラとセバスチアォン・ネットも参加しています。そして、「スペシャル・ゲスト・アーティスト“トニー・ブラジル”オン・ギター」と紹介されているのが、誰あろうトム・ジョビンです。

1962年に渡米したアントニオ・カルロス・ジョビンは、1964年にワーナーと専属契約を結びます。そしてその後にジャズ・ピアニストのジャック・ウィルソンと知り合います。おそらく二人は意気投合したのでしょう。ジャック・ウィルソンは自己のアルバムで演奏して欲しいとトム・ジョビンに持ち掛けます。けれどもトムはそれはできないと断ります。だって僕はワーナーと契約を結んだばかりなんだから。君のレコードに参加したら契約違反になるよ。でもジャック・ウィルソンは諦めません。だったら本名を出さなければ良いじゃないか? 匿名でレコーディングするんだよ。誰にもわかりっこないさ……。

こうして、奇妙奇天烈なレコーディング・ネーム「トニー・ブラジル」が誕生しました。

(続く)

2006年05月02日

『パウロ・セーザル・ピニェイロ』

トム・ジョビンが「マチータ・ペレー」を共作者のパウロ・セーザル・ピニェイロとデュエットしているこのアルバムも、今日ではほとんど話題にならなくなってしまいました。1980年の録音だと思います。

「マチータ・ペレー」のこのトラックは、もしかしたらアルバム『マチータ・ペレー』におけるトムのトラックに匹敵するかもしれない名演です。パウロとトムが交互に歌いつないでいくのですが、それほど歌がうまいとは言えないこの二人、しかし、すばらしい味わいがあります。こういう味は作者にしか出せません。アレンジ(ドリ・カイミ)はほとんど『マチータ・ペレー』そのままなのですが、途中、より大胆にテンポを変えている箇所もあります。ピアノはハダメス・ジナタリです。

レコードの中・裏ジャケットのトムの写真が面白い。コーヒーを片手に視線を落として気取っています。

2006年05月01日

『オ・コルサーリオ・ド・ヘイO Corsário do Rei』エドゥ・ロボ シコ・ブアルキ

ずいぶん前にえんたつさんがこのアルバムのことを話題にしていましたね。シコ・ブアルキとエドゥ・ロボが共作したサウンドトラックのアルバムは数枚あるのですが、これもその一つです。録音は1985年。ジャヴァンとかガル・コスタとかナナ・カイミとかイヴァン・リンスとかも歌っています。どういう映像だったのかはまったく知りません。

で、B面2曲目でシコとエドゥの「ショーロ・バンヂード」をエドゥが歌っていて、そのバックでトムがピアノを弾いています。トムは時々バックコーラスも付けています。アルバム全体で言うとつまらない曲もあるのですが、この曲だけは「格」が違います。もともとは小品だと思うのですが、実にダイナミック。とても奥深いです。なお、歌詞カードにはこの曲に「このショーロはマエストロ・アントニオ・カルロス・ジョビンに捧げられている」と書かれています。

それにしても、えんたつさんの奥さんの「海の王族」というのは名訳です。本当に。

CD化を望む。

2006年04月18日

『ジョアン・ド・ヴァーリ』ジョアン・ド・ヴァーリ

ノルデスチのコンポーザーであるジョアン・ド・ヴァーリのその名も『ジョアン・ド・ヴァーリ』というアルバムにトム・ジョビンが参加しています。1981年の録音です。

トムが参加しているのは「Pé do lageiro(Aonde a onça mora)」という曲。すばしこくてコミカルな、ジョアン・ド・ヴァーリの曲です。トムは女性コーラスを従えて歌っています。この時期の彼がこのように他人のアルバムで他人の曲に参加することは極めて稀だったはずです。ジョアン・ド・ヴァーリに敬意を持っていたことの証しではないかと思います。

ジョアン・ド・ヴァーリはボサノヴァ・ファンにとってはナラ・レオンの「オピニオン」くらいしか接点がないですね(しかもあれはもちろんボサノヴァではない)。僕もほとんど聴かないです(すみません)。

しかしこういう重箱の隅的アルバムを紹介するようになってくると、この企画もそろそろ……ですかね。

参考

2006年04月04日

『Cais』 Ronald Bastos

 先週、中目黒の楽屋のsem voceのライヴに行った時に、相方との待ち合わせまでちょっと時間があったので商店街をぶらついていたら、中古レコード店がありました。ほとんどHIP HOPの品揃えで、僕などとは99%縁のない店だったのですが(店の方も僕のことを「変な奴が来たぞ」と思っている様子がうかがえました)、ワールドミュージックのコーナーに表題のCDがあったので買ってきました。以前からトムのディスコグラフィを眺めてはそのうちに手に入れようと思っていた1枚だったので。

 ホナルド・バストスが歌詞を書いている曲を、カエターノやシコやガルやミルトンなどが歌っているのですが、トム・ジョビンとバンダノヴァも参加して「O trem azul」を歌っています。1989年のアルバムです。

 トムの「O trem azul」と言えば遺作の『アントニオ・ブラジレイラ』での録音がもちろん有名ですが、その前にこのオムニバス盤での録音があったわけで、両者のトラックはまったく異なっています。第一にこちらはポルトガル語(『アントニオ・ブラジレイラ』では英語)。こちらの方がテンポはゆったりしているし、トムのヴォーカルその他が電子処理もそれほど施さない形で収録されているように思います。

http://cliquemusic.uol.com.br/artistas/artistas.asp?Status=DISCO&Nu_Disco=3727

2006年03月20日

『エスチ・セウ・オリャール』ルイス・クラウヂオ

 REVIVENDOから出ているこのCD、オフィス・サンビーニャが日本語の解説をつけて国内向けに出しています。あまり話題になりませんが、これはボサノヴァ・ファンには要チェックの一枚です。

 重要なのは一曲だけ、タイトル曲の「Este seu olha」だけですが、トム・ジョビンのこの曲、オーケストラの編曲と指揮はトム本人です。それだけではなく、トムはピアノも弾いています。

 さらにそれどころか、ジョアン・ジルベルトがヴィオラォンを弾いています。録音は1959年ですから、ジョアンはデビュー・アルバムの録音前後だと思います。

 ジョアン・ジルベルトのヴィオラォンには唸らざるを得ません。紛れもなくジョアンのヴィオラォンです。間奏ではそれにトムのピアノが絡みます。まったく天国のようなトラックです。ちょっとオーケストラがうるさいのが玉に瑕ですが。

 ルイス・クラウヂオのヴォーカルも、悪くありません。このアルバムは編集版ですが、ボサノヴァ期のアルバムが完全な形で復刻されることを望みます。

2006年02月26日

『テンポ・イ・アルチスタ(時とアーティスト)』クアルテート・エン・シー

「トム・ジョビンのラスト・レコーディングには諸説ある」という中の一説は、クアルテート・エン・シーの1994年のこのアルバムです。そう言っているのはほかでもない、「アントニオ・カルロス・ジョビン 評伝」(未邦訳)という著作のあるセルジオ・カブラルです。

トムはこのアルバムの一曲でピアノを弾いています。ヴォーカルはなし。ほかの楽器もなくて、四人(シーヴァ、シベーリ、シナーラ、ソーニア)とトムだけの演奏です。共演しているその曲はほかでもない、トム・ジョビン最初の作品と言われている「イマジーナImagina」です。

この演奏を聴く限りでは、トムはとてもコンディションが良さそうに思えます。四人との息もぴたりと合っていて、大変完成度の高いトラックです。

しかしこのアルバム全体が、もしかするとクアルテート・エン・シーのベストではないかと思えるくらい良いできです。シコやシヴーカも参加しています。

2006年02月25日

『ナラと素晴らしき仲間たち』ナラ・レオン

ありそうでなかなかないのがトム・ジョビンとナラ・レオンの共演です。これが唯一なのかもしれません(ちゃんと調べたわけではありませんが)。

ナラが多数のビッグ・ネームと共演したこのアルバム、原題は『OS MEUS AMIGOS SÃO UM BARATO』。1977年の録音です。

ラストに入っている「フォトグラフィアFotografia」でトムとナラのデュエットが聴けます。バックもトムのピアノのみ。おそらく弾き語りなのだと思いますが、ほとんどの部分はコードを押さえているだけです。トムのヴォーカルはいつもの通りだし、実に淡々とした、これほど細工も何もしないで世に出しちゃって良いのだろうかと思えるようなトラックです。最後もさっさと切り上げてしまっています。

しかし、この余韻は何なのでしょう? レコードから針が上がったあとの静寂が切なくてたまりません。ついつい何度も針を落としてしまいます。

あとこのアルバムでは、ナラがシコとデュエットする「ジョアンとマリアJoão e Maria」が、これまた切なくて秀逸です。

2006年02月24日

『ガル』ガル・コスタ

ガル・コスタとトム・ジョビンの共演はいくつもありますが、いちばん地味な形での共演がこれかもしれません。1992年の録音。トムは「十字路Caminhos cruzados」のバックでピアノを弾いています。

ヴィオラォンとストリングスをフューチャーしていて、間奏以外の部分ではトムのピアノを前面に押し出しているわけではないのですが、それだけにかえってトムの「らしさ」が伝わってくる録音です。間奏はこれはもう彼にしか弾けないピアノ。変わったことはしていないのですが、サウダーヂがたっぷりです。

映像として残っている二人の共演を観ると、ガルとトムとは意外に相性が良かったように思います。「意外に」というところがミソなのですが……。

2006年02月18日

『ディスコムナル』V.A.

ずいぶん前にクアルテート004のことを書いたことがありましたが、その004とトム・ジョビンが共演しているこのライヴ盤、ほとんど話題に上らないので一度書いておこうと思います。

録音は1968年。会場はリオのトネレーロス劇場。トム・ジョビンとクアルテート004のほかに、バーデン・パウエル、シコ・ブアルキ、マルシア、パウロ・モウラ(セプテット)などが出演。オーケストラの指揮はエウミール・デオダート。司会は、ナラ・レオンの父親と親交があったユーモア作家のミロール・フェルナンデスが務めています。

トムとクアルテート004の共演が聴けるのは、「ウェイヴVou te contar」、「ボン・テンポBom tempo」、「白と黒のポートレートRetrato em branco e preto」の3曲。「ボン・テンポ」にはシコも参加して歌っています。トムはピアノを弾いていて、ヴィオラォンは004のメンバーの一人が弾いているようです。トムのピアノの音はそれほど聴こえませんが、明らかにトム本人の音数の少ない演奏です。ただ、「白と黒のポートレート」ではいつになく強い調子で鍵盤を叩いている様子も聴くことができます。

それにしても、ミロール・フェルナンデスが「アントニオ・カルロス・ジョビン!」と紹介すると、万雷の拍手が湧き起こります。1968年と言うとちょっと微妙な時期でもあったのではないかと思うのですが、トムに対する聴衆の敬意が良くわかる貴重な記録でもあります。

2006年02月16日

『レッド・リヴァー』イタマーラ・コーラックス

*仕事で2日間四国にいました。今日は霧と雨の中を松山→高松→徳島とレンタカーで走破。でも春っぽくてなかなか良いドライヴでした。

トム・ジョビンのラスト・レコーディングには諸説あるのですけれど、このアルバムもその一つです。「É preciso dizer adeus」のバックでピアノを弾いています。しかしまあ何という味のあるピアノでしょう。これまた特に変わったことはしていない演奏なのですが、淡々とした中にワン・アンド・オンリーの趣きがあります。曲の最初と最後にちょっとだけ息遣いと声にならない声も聴こえます。

アルバム全体の出来は、そんなに良くありません。イタマーラ・コーラックスはもうちょっと歌える人だと思うのだけれど、本人がそれをわかっていないのではないかと思う。アレンジも全体的に良くありません。だから手に入れるかどうかは、ジョビンの伴奏する「É preciso dizer adeus」を聴きたいと思うかどうかですね。あくまでも僕のものさしではということですが。

2006年02月13日

『ザ・シャドウ・オヴ・ユア・スマイル』アンディ・ウィリアムス

*今日は朝5時前に起きて宇都宮で仕事。で、変な時間に寝てしまって、夜中に起き出して、今日は何を書こうかと、古いLPを引っ張り出して音を絞って聴きながらビールを飲んでいるところです。

トム・ジョビンのソングブック(もしくはそれに近いアルバム)の紹介は今後ものんびりと続けていきますが、トム・ジョビンがレコーディングに加わっているディスクも少しずつ紹介していこうと思います。なるべく普段話題にならないもの(例えば日本語版「アントニオ・カルロス・ジョビン ボサノヴァを創った男」の巻末のディスコグラフィに掲載されていないもの)を中心にしていくつもりです。題して、「あっ! こんなところにマエストロが!」。

第一回は、アンディ・ウィリアムスの1966年の録音です。トム・ジョビンがアンディ・ウィリアムス・ショウに出演していたことは以前にも書きましたが、アンディのボサノヴァ・アルバムに参加して演奏もしています。アンディ・ウィリアムス・ショウへの出演(放映)が1965年3月15日なので、それを契機にアンディがボサノヴァ・アルバムを作ることになって、トムにも声が掛かったということではないかと思います。トム・ジョビンは「メディテイション」と「ハウ・インセンシティヴ」の二曲に参加しています。

ところで、トムはこの録音にヴィオラォンで参加していると言われているのですが、二曲ともほんのかすかに聴こえるピアノもトムの演奏かもしれません。音数が少なくて、トムのスタイルが良く表われています。ただ、ほかの曲(トムが参加していないはずの曲)で聴こえるピアノにもちょっとそういう傾向があるので、本当のところはわかりません。ヴィオラォンは間違いなくトムのもので、いつものように適確なサポートです。「トム・ジョビンはヴィオラォンの名手説」(というのが以前から内輪で盛り上がっているのですが)を裏付ける演奏です。変わったことはしていませんが、メリハリが利いていて、表情があります。なお、編曲はロバート・マーシーという人のようです。

僕はこのアルバムをオリジナルのフォーマットでは所有していなくて、『ボサ・ノバ、ラテンをアンディと』という日本で出た編集盤(LP)でしか持っていないのですが、なかなか良いアルバムだと思います。アンディ・ウィリアムスは僕の守備範囲外なのですが、この歳になって聴くと、これはこれで悪くありません。

ところで、以前に紹介したアンディ・ウィリアムス・ショウでトムが一曲だけ出演している映像が、日本版でも発売されているようです。ご興味のある方はどうぞ。
http://wmg.jp/artist/andywilliams/WPBR000090547.html

以下は以前に僕がその映像を紹介したこのブログ内の記事です。
http://blogs.dion.ne.jp/naoki/archives/1193239.html
http://blogs.dion.ne.jp/naoki/archives/1200090.html

なお、アンディ・ウィリアムスは先週来日して東京国際フォーラムで公演しているはずです。アンディ・ウィリアムス・ショウだけではなく、大昔にはレイク・タホのホテルでのライヴにもトムに伴奏させたりしている人なので、できればちょっと話を聴いてみたい気もするのですが、あまりにもビッグ・ネーム過ぎるので、まず無理でしょうね。誰か聴いておいてくれると良いのですけれど。